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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

前方の画面が眩ゆいばかりの眩耀で覆われているにもかかわらず、その上方の部分が映っている後方の鋼鉄扉には、はたしてどこから映ったものか、くっきりと確かな線で、しかも典麗な若い女の顔が現われているのだった。さらにいっそう薄気味悪いことには、擬うかたなくそれが、黒死館で邪霊と云われるテレーズ・シニヨレだったのである。法水は側の驚駭には関わず、その妖しい幻の生因を闡明した。

「判ったでしょう田郷さん、混乱した色彩があの距離まで来ると、始めて統一を現わすのですよ。しかし、その点描法の理論と云うのは、この場合単に、分裂した色彩を綜合する距離を示したのみのことです。無論その色彩だけでは、朦朧としたものがこの漆扉へ映るにすぎないでしょう。実はその基礎理論の上に、さらに数層の技巧が必要なのです。と云うのは、ほかでもないのですが、今世紀の初めに黴毒菌染色法として、シャウディンとホフマンが案出した『暗視野照輝法』なのですよ。元来黴毒菌は無色透明の菌なので、そのまま普通の透視法を用いたのでは、顕微鏡下で実体を見ることは出来ません。それで、一案として顕微鏡の下に黒い背景を置き、光源を変えて水平から光線を送るようにしたのですが、その結果始めて、透明の菌だけから反射されてくる光線を見ることが出来たのでした。