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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
階段を上りきった正面には、廊下を置いて、岩乗な防塞を施した一つの室があった。鉄柵扉の後方に数層の石段があって、その奥には、金庫扉らしい黒漆がキラキラ光っている。しかし、その室が古代時計室だということを知ると、収蔵品の驚くべき価値を知る法水には、一見莫迦気て見える蒐集家の神経を頷くことが出来た。廊下はそこを基点に左右へ伸びていた。一劃ごとに扉が附いているので、その間は隧道のような暗さで、昼間でも龕の電燈が点っている。左右の壁面には、泥焼の朱線が彩っているのみで、それが唯一の装飾だった。やがて、右手にとった突当りを左折し、それから、今来た廊下の向う側に出ると、法水の横手には短い拱廊が現われ、その列柱の蔭に並んでいるのが、和式の具足類だった。拱廊の入口は、大階段室の円天井の下にある円廊に開かれていて、その突当りには、新しい廊下が見えた。入口の左右にある六弁形の壁燈を見やりながら、法水が拱廊の中に入ろうとした時、何を見たのか愕然としたように立ち止った。
「ここにもある」と云って、左側の据具足(鎧櫃の上に据えたもの)の一列のうちで、一番手前にあるものを指差した。