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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

西班牙セヴィリアの宗教裁判所に、糺問官補のフォスコロという若い僧がいたのだ。ところが、彼の糺問法がすこぶる鈍いばかりでなく、万聖節に行われる異端焚殺行列にも恐怖を覚えるという始末なので、やむなく宗教裁判副長のエスピノザは、彼を生地サントニアの荘園に送り還してしまったのだ。ところが、それから一、二ヶ月後に、エスピノザはこういうフォスコロの書翰を受取ったのだが、同封の紙片に描かれたマッツオラタ(中世伊太利でカーニバル季における最も獣的な刑罰)の器械化を見て、思わず一驚を喫してしまった。

――セヴィリアの公刑所には、十字架と拷問の刑具と相併立せり。されど、神もし地獄の陰火を点し、永遠限りなくそれを輝かさんと欲せんには、まず公刑所の建物より、回教式の丈高き拱格を逐うにあらん。吾、サントニアに来りてより、昔ゴーティア人の残せし暗き古荘に棲む。実に、その荘は特種の性質を有せり。すなわちそれ自身がすでに、人間諸種の苦悩を熟慮したる思想を現わすものにして、吾そこにおいて種々の酷刑を結合しあるいは比較して、終にその術において完全なる技師となれり――と。

ねえ熊城君、こういう凄惨な独白は、そもそも何が語らせたのだろうか。