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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
けれども、この場合、伸子のヒステリー性発作と猶太型の犯罪とは、とうてい一致し得べからざるほどに隔絶したものではないか。
(しかるにワルドシュタインの左翼は、王の右翼よりも遙かに散開しいたれば、王ウイルヘルム侯に命じて戦列を整わしむ。その時、侯は再び過失を演じて、加農砲の使用を遅らしめたり)
検事は、相変らず法水を鈍重ウイルヘルム侯に擬して、黙々たる皮肉を続けていたが、熊城はたまらなくなったように口を開いた。
「とにかく、ロスチャイルドでもローゼンフェルトでもいいから、その猶太人の顔というのを拝ませてもらおう。それに君は、伸子の発作を偶然の事故に帰してしまうつもりじゃないんだろうね」
「冗談じゃない。それなら伸子は、何故朝の讃詠をあの時繰り返して弾いたのだろう」と法水は語気を強めて反駁した。
「いいかね熊城君、あの女は、非常に体力を要する鐘鳴器で、経文歌を三回繰り返して弾いたのだ。そうなると、モッソウの『疲労』を引き出さなくても、神経病発作や催眠誘示には、すこぶるつきの好条件になってしまう。そこに、あの女を朦朧状態に誘い込んだものがあったのだよ」
「ではなんという化物だい。