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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「ダビデが、もし吾を遁さざれば汝を殺さんと云いしによって、吾、恐れて彼を遁したるなり」――と。サウル娘の罪を許せり。
「そういう訳で、猶太人は、それに一種宗教的な許容を認めている。つまり、自己を防衛するに必要な虚言だけは、許されねばならない――とね。しかし、無論僕は、それだけでクリヴォフを律しようとするのじゃない。僕はあくまで、統計上の数字というものを軽蔑する。だがしかしだ。あの女は、一場の架空談を造り上げて、実際見もしなかった人物が、寝室に侵入したと云った。いかにも、それだけは事実なんだよ」
「ああ、あれが虚妄だとは」検事は眉を跳ね上げて叫んだ。
「すると君は、その事をどこの宗教会議で知ったのだね」
「どうして、そんな散文的なもんか」と法水は力を罩めて云い返した。「ところで、法心理学者のシュテルンに、『供述の心理学』という著述がある。ところが、その中であのブレスラウ大学の先生が、予審判事にこういう警語を発しているのだ。――訊問中の用語に注意せよ。何故なら、優秀な智能的犯罪者と云えるほどの者は、即座に相手が述べる言葉のうちの、個々の単語を綜合して、一場の虚妄談を作り上げる術に巧みなればなり――と。