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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

これもまた、棺龕十字架と同様、設計者クロード・ディグスビイが残した秘密記法だ――と。何故なら、通例では、春分点のある白羊宮が円の中心になっているのだけれども、これには磨羯宮が代っている。また、縦横に馳せ違っているジグザグの空隙にも、鐘鳴器の残響を緩和するという性能以外に、なんらかの意味がなくてはならぬと考えたからだ。ところが熊城君、元来十二宮なんてものは、古来からありふれている迷信上の産物にすぎない。第一、文字暗号ではないのだから、肝腎の秘密ABCを発見するのに必要な資料が、これにはてんで与えられていないのだ。しかし、僕はランジイ(マクベス、ジイヴィルジュ等と並ぶ斯道の大家。一九一八年、“Cryptographie”を発表す)じゃないがね。仮定す――という慣用語は、まさに解読家にとって金科玉条に等しいと思うのだよ。何故なら「冂+夂」に似た形(処女宮)とか「Ω」に似た形(獅子宮)とか云うように、十二宮固有の符号はあるけれども、僕は猶太釈義法をそれに当てて見たのだ。つまり一八八一年の猶太人虐殺の際に、波蘭グロジスクの町の猶太人が十二宮に光を当てて、隣村に危急をしらせたという史実があるほどだし……、それに、ブクストルフ(ヨハンまたはヨハネス、一五六四―一六二九。