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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ねえ支倉君、心像は広い一つの国じゃないか。それは混沌でもあり、またほんの作りものでもあるのだ」とシュニッツラーを即興的に焼直したのを口吟んでから、彼は一つ大きな伸びをして立ち上った。
「サア熊城君、終幕の緞帳を上げてくれ給え。恐らく今度の幕が、僕の戴冠式になるだろうからね」
ところがその時、喝采が意外な場所から起った。突然電話の鈴が鳴って、その一瞬を境に、事態が急転してしまった。クリヴォフ夫人に帰納されていった法水の超人的な解析も、この底知れない恐怖悲劇にとっては、たかが一場の間狂言にすぎなかったのである。法水は、静かに受話器を置いた。そして、血の気の失せきった顔を二人に向けて、なんとも云えぬ悲痛な語気を吐いた。
「ああ、僕はシュライエルマッヘルじゃないがね。熱を傾けて苦を求めたよ、また、血みどろの身振り狂言なんだ。それも、人もあろうに、クリヴォフが狙撃されたんだよ」と陽差が翳って薄暗くなった大火之図の上に、法水はいつまでも空洞な視線を注いでいた。あたかもその様子は、彼が築き上げた壮大な知識の塔が、脆くも崩壊しつつある惨状を眺めているかのようであった。