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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
そして、室内には陳列品のほかに、巨大な石卓と、天蓋のない背長椅子が一つあるのみにすぎなかった。しかも、その暗澹とした雰囲気を、さらにいちだん物々しくしているのが、周囲の壁面を飾っている各時代の古代武具だったのである。それには、さして上古のものはなかったけれども、小型のモルガルテン戦争当時の放射式投石機、屯田兵常備の乗入梯子、支那元代投火機のようなやや型の大きい戦機に類するものから、手砲用鞍形楯ほか十二、三の楯類、テオドシウス鉄鞭、アラゴン時代の戦槌、ゲルマン連枷、ノルマン型大身鎗から十六世紀鎗にいたる、十数種の長短直叉を混じた鎗戟類。また、歩兵用戦斧をはじめに、洋剣の類も各年代にわたっていて、ことに、ブルガンディ鎌刀やザバーゲン剣が珍奇なものだった。そして、その所々に、ヌーシャテル甲冑やマキシミリアン型、それにファルネスやバイヤール型などの中世甲冑が陳列されていて、銃器と云えば、わずかに初期の手砲を二つ三つ見るにすぎなかった。しかし、それ等陳列品を巡視しているうちに、恐らく法水は、彼が珍蔵しているグロースの「古代軍器書」を、この際持参しなかったことが悔まれたに違いない。