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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
けれども、それとはどこか異なった感じで、同じ冷たさにしても、生きた魚の皮膚に触れるといったような、なんとなくこの一劃の空気から、微かな動悸でも聴えてきそうであって、まあ云わば、生体組織を操縦している、不思議の力があるのを浸々と感ずるのだった。しかし、検事と熊城に入られてしまうと、法水の幻想は跡方もなく飛び散ってしまった。そして、やはり構図のせいかなと思うのだった。法水はこの時ほど、寝台を仔細に眺めたことはなかった。
天蓋を支えている四本の柱の上には、松毬形をした頂花が冠彫になっていて、その下から全部にかけては、物凄いほど克明な刀の跡を見せた、十五世紀ヴェネチアの三十櫓楼船が浮彫になっていた。そして、その舳の中央には、首のない「ブランデンブルクの荒鷲」が、極風に逆らって翼を拡げているのだった。そういう、一見史文模様めいた奇妙な配合が、この桃花木の寝台を飾ってる構図だったのである。そして、ようやく法水が、その断頸鷲の浮彫から顔を離した時だった。静かに把手の廻転する音がして、喚ばれた紙谷伸子が入って来た。
第六篇 算哲埋葬の夜
一、あの渡り鳥……二つに割れた虹