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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

しかし、フラフラ歩んで来て座に着くと、彼女は昂奮を鎮めるかのように両眼を閉じ、双の腕で胸を固く締めつけていて、しばらく凝然と動かなかった。それに、黒地の対へ大きく浮き出している茅萱模様の尖が、まるで磔刑槍みたいな形で彼女の頸を取り囲んでいる。それなので、偶然に作られてしまったその異様な構図からは、妙に中世めいた問罪的な雰囲気が醸し出されてくる。そして、樫と角石とで包まれた沈鬱な死の室の周囲へ、それが渦のように揺ぎ拡がってゆくのだった。やがて、法水の唇が微かに動きかけて沈黙を破ろうとしたとき、あるいは先手を打とうとしたのだろうか、突如伸子の両眼がパチリと見開かれた。そして、彼女の口からいきなり衝いて出たものがあった。

「私、告白いたしますわ。いかにも鐘鳴器室で気を失いました際には、鎧通しを握っておりました。また、易介さんが殺された前後にも、今日のクリヴォフ様の出来事当時にだって、奇妙なことに、私だけには不在証明と云うものが恵まれておりませんでした。いいえ、私は最初から、この事件の終点におかれているんですわ。ですから、ここで幾ら莫迦問答を続けたところで、結局この局状には批評の余地はございませんでしょう」