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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかし、云い終ると何故であろうか、まるで恐ろしい言葉でも待ち設けているように、堅くなってしまった。恐らく、彼女自身でさえも、嘲侮の限りを尽している自分の言葉には、思わず耳を覆いたいような衝動に駆られたことであろう。熊城は唇をグイと噛み締めて、憎々しげに相手を見据えていたが、その時法水の眼に怪しい光が現われて、腕を組んだままズシンと卓上に置いた。そして、いかにも彼らしい奇問を放った。
「ああ、算哲……。あの凶兆の鋤――スペードの王様をですか」
「いいえ、算哲様なら、ハートの王様でございますわ」と伸子は反射的にそう云った後で、一つ大きな溜息をした。
「なるほど、ハートなら、愛撫と信頼でしょうが」と瞬間法水の眼が過敏そうに瞬いたが、「ところで、その告げ口をするという蝙蝠ですが、いったいそれは、どっちの端にいたのですか」
「それが、鍵盤の中央から見ますと、ちょうどその真上でございましたわ」と伸子は躊らわずに、自制のある調子で答えた。
「しかし、その側には、好物の蛾がいたのです。けれどもその蛾が、あくまで沈黙を守っている限りは、よもや残忍な蝙蝠だって、むだに傷つけようとはいたすまいと思いますわ。