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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「ハハハハ、莫迦らしいにもほどがある。あのスペードの王様が、まだ生きているなんて」

「いいえ、算哲様なら、ハートの王様なのでございます」と鎮子はほとんど反射的に叫んだが、と同時にまた、ハッとしたらしく恐怖めいた衝動が現われて、いきなりその指環を、小指に嵌め込んでしまった。そして、大きく吐息を吐いて云った。「しかし、私が精神萌芽と申しましたのは、要するに寓喩なのでございます。どうぞ、それを絵画的にはお考えあそばされないで。かえってその意味は、エックハルト(ヨハン。一二六〇――一三二九年。エルフルトのドミニカン僧より始め、中世最大の神秘家と云われた汎神論神学者)の云う霊性の方に近いのかもしれませんわ。父から子に――人間の種子が必ず一度は流転せねばならぬ生死の境、つまり、暗黒に風雨が吹き荒ぶ、あの荒野のことですわ。もう少し具体的に申し上げましょうか。吾等が悪魔を見出し得ざるは、その姿が、全然吾等が肖像の中に求め得ざればなり――と、勿論、この事件最奥の神秘は、そういう超本質的な――形容にも内容にも言語を絶している、あの哲学径の中にあるのです。法水さん、それは地獄の円柱を震い動かすほどの、酷烈な刑罰なのでございますわ」