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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「なるほど、それが虹を発生させた濛気か」検事は爪を噛みながら頷いた。「いかにもその一事で、伸子の不在証明が裏書されるだろう。あの女は、異様な気体が窓の中へ入り込んでゆくのを見た――と云ったからね」
「ところが支倉君、その場所というのは、窓が開いている部分ではないのだよ。あの当時棧を水平にしたままで、鎧扉が半開きになっていたのを知ってるだろう。つまり、噴泉の濛気は、その棧の隙間から入り込んでいったのだ」と法水は几帳面に云い直したが、続いて彼は、その虹に禍いされた唯一の人物を指摘した。「それでないと、ああいう強彩な色彩の虹が、けっして現われっこないのだからね。何故なら、空気中の濛気を中心に生じたのではなく、棧の上に溜った露滴が因で発したからなんだ。つまり、問題は、七色の背景をなすものにあった訳だが、……しかし、より以上の条件というのが、その虹を見る角度にあったのだ。言葉を換えて云えば、火術弩が落ちていた――つまり、当時犯人がいた位置のことなんだよ。しかも、あの隻眼の大女優が……」
「なに、押鐘津多子※(感嘆符疑問符、1-8-78)」熊城は度を失って叫んだ。