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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
現に、口腔の中に残っている果肉の噛滓からも、多量の物が発見されているし、何より不思議な事には、それが、最初口に入れた一房にあったのだ。だから、犯人は偶然最初の一発で、的の黒星を射当てたと見るよりほかになかろうと思うね。他の果房はこのとおり残っていても、それには、薬物の痕跡がないのだよ」
「そうか、洋橙に※(感嘆符疑問符、1-8-78)」と法水は、天蓋の柱をかすかに揺ぶって呟いた。「そうすると、もう一つ謎がふえた訳だよ。犯人には、毒物の知識が皆無だという事になるぜ」
「ところが、使用人のうちには、これという不審な者はいない。久我鎮子も易介も、ダンネベルグ夫人が自分で果物皿の中から撰んだと云っている。それに、この室は十一時半頃に鍵を下してしまったのだし、硝子窓も鎧扉も菌のように錆がこびり付いていて、外部から侵入した形跡は勿論ないのだよ。しかし妙な事には、同じ皿の上にあった梨の方が、夫人にとると、はるかより以上の嗜好物だそうなんだ」
「なに、鍵が?」と検事は、それと創紋との間に起った矛盾に、愕然とした様子だったけれども、法水は依然熊城から眼を離さず、突慳貪に云い放った。