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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それぞれの頭の中では、各人各種の思念が渦のように巻き揺いでいた。検事と熊城には、事件の開展が期待され、また、旗太郎はその開封に、何か自分の不利を一挙に覆すようなものを、待設けているかのごとくであった。間もなく、二人の姿が再び現われて、法水の手に一葉の大型封筒が握られていた。ところが、環視の中で封を切り、内容を一瞥すると同時に、法水の顔には痛々しい失望の色が現われた。ああ、ここにもまた、希望の一つが虧け落ちてしまったのだ。それには、いっこうに他奇もない、次の数項が認められてあるのみだった。

一、遺産は、旗太郎並びにグレーテ・ダンネベルグ以下の四人に対し、均等に配分するものとす。

二、なお、すでに当館永守的な戒語である――館の地域以外への外出・恋愛・結婚、並びに、この一書の内容を口外したるものは、ただちにその権利を剥奪さるるものとす。ただし、その失いたる部分は、それを按分に分割して、他に均霑さるるものなり。

以上は、口頭にても各々に伝え置きたり。

旗太郎にも、同様落胆したらしい素振が現われたけれども、さすがに年少の彼は、すぐに両手を大きく拡げて喜悦の色を燃やせた。