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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「ところがねえ熊城君、アドルフ・ヘンケの古い法医学書を見ると、一人の淫売婦が、腕を身体の下にかって横向きになった姿勢のままで毒を仰いだのだが、瞬間の衝撃を喰うと、かえって痺れた方の腕が動いて、瓶を窓から河の中へ投げ捨てたと云う面白い例が載っているぜ。だから一応は、最初の姿体を再現してみる必要があると思うね。それから死体の光は、アヴリノの『聖僧奇蹟集』などに……」

「なるほど、坊主なら、人殺しに関係あるだろう」と熊城は露骨に無関心を装ったが、急に神経的な手附になって、衣嚢から何やら取り出そうとした。法水は振り向きもせず、背後に声を投げて、

「ところで熊城君、指紋は?」

「説明のつくものなら無数にある。それに、昨夜この空室に被害者を入れた時だが、その時寝台の掃除と、床だけに真空掃除器を使ったというからね。生憎足跡といっては何もない始末だ」

「フム、そうか」そういって法水が立ち止ったのは、突当りの壁前だった。そこには、さしずめ常人ならば、顔あたりに相当する高さで、最近何か、額様のものを取り外したらしい跡が残ってい、それがきわめて生々しく印されてあった。ところがそこから折り返して旧の位置に戻ると、法水は卓子灯の中に何を認めたものか、不意検事を振り向いて、