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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

法水は軽く口をしめしてから、切り出した。

「ところで僕は、一々事象を挙げて、それを分類的に説明してゆくことにする。それで、最初はこの靴跡なんだが……」と卓上に載せてある二つの石膏型を取り上げた。「勿論これに、くどくどしい説明は要るまいけれど、まず最初が、小さい方の純護謨製の園芸靴――だ。これは、元来易介の常用品で、園芸倉庫から発して、乾板の破片との間を往復している。ところが、その歩行線を見ると、形状の大きさに比べると、非常に歩幅が狭く、しかも全体が、電光形に運ばれているのだ。また、その上足型自身にも、僕等の想像を超絶しているような、疑問が含まれている。だって考えて見給え、易介みたいな侏儒の足に合うような靴で、その横幅が、一々異なっているじゃないか。その上、爪先の印像を中央の部分に比較すると、均衡上幾分小さいように思われるのだ。おまけに、後踵部に重点があったと言えて、その部分には、特に力を加えたらしい跡が残されている……。それから、もう一つの套靴の方は、本館の右端にある出入扉から始まっていて、中央の張出間を弓形に添い、やはりそれも、乾板の破片との間を往復しているのだ。