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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
つまり、人工的に迷路震蕩症を企んだという訳で、勿論その結果、全身の均衡が失われたことは云うまでもないのだ。そこで、熱と右の耳は左へ――というヘルムホルツの定則どおりに、たちまち全身が捻れていったのだよ。そして、廻転が極限まで詰まっている椅子の上で、そのまま左に傾きながら倒れていったのだ。しかし、それが判ったところで、けっして犯人が指摘されるものではなく、むしろ伸子の無辜を明らかにしたにすぎない。いや、ただ単に、伸子を倒した最後の止めを詳しくしたのみで、依然として犯人の顔は、鐘鳴器室の疑問の中に隠されている。そして、問題が室の内部を離れて、今度は、廊下と鉄梯子に移ってしまったのだよ。しかし、こうして伸子が犯人でないとすると、武具室のあらゆる状況が、クリヴォフに傾注されてゆく――それも、けだしやむを得んだろうがね」
こうして、分析したものが一点に綜合されるや、それが検事と熊城を、瞬間眩惑の渦中に投げ入れてしまった。しかし、その間熊城は、さも落ち着かんとするもののように、黙然と莨を喫らしていたが、ややあってから悲しげに云った。
「しかし法水君、どの場面でもクリヴォフの不在証明は、とうてい打ち破し難いものなのだよ。