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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ところが、それと同じ現象が、両端の温度と圧力に差異がある場合、中央に膨みのある洋燈のホヤや、鍵孔などにも現われるのだ。それから、あの場合もう一つ注意を要するのは、中室の周壁をなしている石質なんだ。それが、バシリカ風の僧院建築などによく使われる石灰石なんだが、当然永い年月の間に風化されているだろうからね。したがって、堆塵の中には、水に溶解する石灰分が混っていると見て差支えないのだ。そこで、レヴェズはまず、前室に湯滝を作って濛気を発生させたのだ。すると、時間が経つにつれて、しだいに前後二つの室の、温度と圧力に隔りが出来てくるのだから、そこに、ちょうど恰好な状態が作られる。そして、鍵孔から吐き出される輪形の濛気が、中室の天井を目がけて上昇して行ったのだよ」

「なるほど、輪形の蒸気と石灰分とでか」検事は判ったように頷いたが、その間も微かに身を顫わせていた。

「そうなんだ支倉君。そうして、その蒸気が天井の堆塵に触れると、何よりまず、その中の石灰分に滲透してゆく。したがって、内部に当然空洞が出来るだろうから、終いには支えきれず墜落してしまうのだ。つまり、その物質が、床の足跡を覆うたことは云うまでもあるまい。