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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかし、勿論それで、レヴェズの自殺心理に関する疑念だけは、一掃されたけれども、一方鍵の発見によって、疑問はさらに深められるに至った。
すでにこの局面には、否定も肯定もいっせいに整理されていて、そこには幾つかの、とうてい越え難い障壁が証明されているのだった。恐らく犯人は、レヴェズを前室に引き込んで扼殺し、その屍体を奥の屍室の中に担ぎ入れたのであろう。しかし、前室の鍵が、被害者の衣袋の中に蔵われているにもかかわらず、その扉を、いかにして犯人は閉じたのであろうか。また、屍室に残されている足跡にも、レヴェズ以外のものがないばかりでなく、顔面表情も自殺者特有のもので、それに恐怖驚愕と云うような、情緒が欠けているのは何故であろうか。もっとも、横廊下に開いている聖趾窓には、その上段だけが透明な硝子になっているけれども、一面に厚い埃の層で覆われていて、それには脱出の方法を、想起し得る術もないのだった。したがって、紋章のない石――に、解答のすべてがかけられてしまったのも、是非ないことである。検事は屍体の髪を掴んで、その顔を法水に向けた。そして、彼がかつてレヴェズに対して採ったところの、酷烈きわまりない手段を非難するのだった。