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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それも、以前マリア・アンナ朝時代では、媚薬などを入れたものだが、この寝台では桃花木の貞操帯になっているのだ。と云うのは、この粉末が確かストラモニヒナス(註)――ほとんど稀集に等しい植物毒だろうと思うからだよ。それが鼻粘膜に触れると、狂暴な幻覚を起すのだから、最初明治二十九年に伝次郎事件、それから三十五年に筆子事件――と二つの他殺事件を起して、ついに最後の算哲を、人形を抱いたあの日に斃してしまったのだ。つまり、このディグスビイの呪詛と云うのは、『死の舞踏』に記されている、奢那教徒は地獄の底に横たわらん――の本体なんだよ」
(註)後日法水は、ストラモニヒナスがついに伝説以上のものだったのに、驚いたと云っている。それは、ゲオルヒ・バルティシュ(十六世紀ケーニヒスブルクの薬学者)の著述の中に記されているのみで、近世になってからは、一八九五年にフィッシュと云って、印度大麻の栽培を奨励した、独領東亜弗利加会社の伝道医師のみ。そして、稀に印度大麻にストリヒナス属(矢毒クラーレの原植物)が寄生すると、その果実を土人が珍重して呪術に用ゆるけれども、恐らくそれではないか――という報告を一つもたらせたのみである。