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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

焔の揺ぎから起る微妙な気動が、一番不安定な位置にある数珠玉の埃を、ほんの微かずつ落していったのだよ。ねえ支倉君、じいっと耳を澄ましていると、なんだか茶立蟲のような、美しい鑿の音が聞えてくるようじゃないか。ときに、こういうヴェルレーヌの詩が……」

「なるほど」と検事は慌てて遮って、「けれども、その二年の歳月が、昨夜一夜を証明するものとは云われまい」

とさっそくに法水は、熊城を振り向いて、「たぶん君は、コプト織の下を調べなかったろう」

「だいたい、何がそんな下に?」熊城は眼を円くして叫んだ。

「ところが、死点と云えるものは、けっして網膜の上や、音響学ばかりにじゃないからね。フリーマンは織目の隙から、特殊な貝殻粉を潜り込ましている」と法水が静かに敷物を巻いてゆくと、そこの床には垂直からは見えないけれども、切嵌の車輪模様の数がふえるにつれて、微かに異様な跡が現われてきた。その色大理石と櫨木の縞目の上に残されているものは、まさしく水で印した跡だった。全体が長さ二尺ばかりの小判形で、ぼうっとした塊状であるが、仔細に見ると、周囲は無数の点で囲まれていて、その中に、様々な形をした線や点が群集していた。