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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
されど帰国後吾が心には妄想散乱し、天主、吾れを責むる誘惑の障礙を滅し給えりとも覚えず。(以下略)
「つまり、降矢木の血系が、カテリナ・ディ・メディチの隠し子と云われるビアンカ・カペルロから始まっていると云うことなんだが、その母子がそろって、怖ろしい惨虐性犯罪者ときている。カテリナは有名な近親殺害者で、おまけに聖バルテルミー斎日の虐殺を指導した発頭人なんだし、また娘の方は、毒のルクレチア・ボルジアから百年後に出現し、これは長剣の暗殺者と謳われたものだ。ところが、その十三世目になると、算哲という異様な人物が現われたのだよ」と法水は、さらにその本の末尾に挾んである、一葉の写真と外紙の切抜を取り出したが、検事は何度も時計を出し入れしながら、
「おかげで、天正遣欧使の事は大分明るくなったがね。しかし、四百年後に起った殺人事件と祖先の血との間に、いったいどういう関係があるのだね。なるほど不道徳という点では、史学も、法医学や遺伝学と共通してはいるが……」
「なるほど、とかく法律家は、詩に箇条を附けたがるからね」と法水は検事の皮肉に苦笑したが、「だが、例証がないこともないさ。