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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「それが貴女なら、僕は支倉に云って、起訴させましょう」と法水は動じなかった。
「いいえ、易介なんです」鎮子は静かに云い返した。「ダンネベルグ様が洋橙を召し上る十五分ほど前でしたが、易介はその前後に十分ばかり室を空けました。それが、後で訊くとこうなんです。ちょうど神意審問の会が始まっている最中だったそうですが、その時易介が裏玄関の石畳の上に立っていると、ふと二階の中央で彼の眼に映ったものがありました。それが、会が行われている室の右隣りの張出窓で、そこに誰やら居るらしい様子で、真黒な人影が薄気味悪く動いていたと云うのです。そして、その時地上に何やら落したらしい微かな音がしたそうですが、それが気になってたまらず、どうしても見に行かずにはいられなかったと申すのでした。ところが、易介が発見したものは、辺り一面に散在している硝子の破片にすぎなかったのです」
「では、易介がその場所へ達するまでの経路をお訊きでしたか」
「いいえ」と鎮子は頸を振って、「それに伸子さんは、ダンネベルグ様が卒倒なさるとすぐ、隣室から水を持ってまいったというほどですし、ほかにも誰一人として、座を動いた方はございませんでした。