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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

「普通の者がいくら欲しがったって、なかなか手にはいらない立派なものなんだから、大事にしまっておけよ。これでこんな風にして空を見ると、眼に見えない星が見えてくる。太陽を見ると、表に黒い汚点があるのだって分るんだ。」

その太陽という言葉が私には嬉しかった。然し太陽を透し見ると、ただ一面にぎらぎらするだけで、どこにも黒い汚点なんか見えなかった。ただ、夜の空を眺めると素晴らしく綺麗だった。昼間でも星がよく見えた。

それを、新聞の大きな字の上にあてると、黒い線の中にいろんな形が白く浮出してきた。花や虫や変梃な模様が、次々に現われてきた。「ほら……ほら……。」と小声で囁きながら、私は妹に見せてやった。私達子供はおとなしくしていなければいけないような気がしたのだった。

母は用が済んでも炬燵の方へやって来なかった。火鉢の前に坐って何か調べ物を初めた。

箪笥の下の方の片隅に、黒い鉄の延板がやたらに打ちつけてあって、そこに、手文庫代りの小さな抽出が幾つもついていた。母はその中から、いろんな紙片のはいってる袋や、小さな帳面や、黒い玉の小さな算盤などを取出した。そして、脂の多い皺くちゃな眼をしかめて、しきりに計算を初めた。