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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

――後で分ったことだが、母は内々知人の間に、日歩の金なんかを廻していた。それもごく僅かな額で兄の慰藉料や姉の身代金などから差引いたものらしかった。さんざん借金に苦しんできたので、自分でもそんなことをしてみたくなったのだろう。

計算が少しこんぐらがってきたとみえて、母は癇癪を起し初めた。口の中でぶつぶつ云ってみたり、器具にあたりちらしたりしていたが、しまいにその飛沫を私達の方へ持って来た。

「何をぐずぐずしてるんだい。寝ておしまいよ。」

「もう寝てもいいの。」と私は云った。

「寝ておしまいよ。」と母はくり返して云った。「またそんな役にも立たないものを持ち出して、何をしてるんだい。勉強もしないで……そんなもの、こっちへよこしておしまい。」

私は虫眼鏡を取上げられはすまいかと思って、急いで立ち上った。そして次の四畳半に蒲団を敷いて、妹と一緒に寝た。妹はすぐに眠ってしまったが、私はなかなか眠られなかった。

九時を打って間もなく、父が帰ってきた。母は帳面やなんかを元の通りにしまって、抽出に鍵をかった。父は酔ってるようだった。足音が非常に大きかった。

「どうだったんだい。