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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

ふと気がつくと、カフェーの扉から半身を出して彼女が、混血児そっくりの顔付で手招きしていた。それを見た瞬間、今迄の熱情はすっかり消え失せてしまって、私は石のように冷くなった。そして真直に歩み寄っていった。

「何をぼんやり立ってたの。」

私は返辞をしなかった。彼女の後について中にはいった。ぱっと光の中に飛び込んだような気持だった。彼女に連れられて隅っこの卓子に坐るまで殆んど無意識だった。

円い腰掛、真白な冷い卓子、黒ずんだ植木、それらを意識しだして我に返ると、私は喫驚してしまった。胸をどきつかせながら空想していたようなものは何もなかった。学校の講堂より狭い天井の低いだだ広い室、所々に置かれてる生気のない植木、卓子の列、鉄の煖炉と錆びた煙突……あちらこちらに二三人ずつの男が声低く話してるきりだった。

お清は私の前につっ立ってにこにこしていた。

「どう。……でもよく来られたわね。」

その彼女までが、白いエプロンをつけてるせいか、ずっと年取ってるように見えた。あの素晴らしい笑い方もしなければ、飛び上るような物の云い方もしなかった。

ただ、天井の大きな電球の光だけが素敵だった。