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くろばしゃ
黒馬車
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,235 字 · 9 页
時候あたりだろうと云って居た宮部の加減は、よくなるどころか却って熱なども段々上り気味になって来た。
地体夏に弱い上に、此の間どうしたのか頭の工合を悪くして三日ほど床について居た揚句にたべたかつおの刺身がさわったのだと云う事は確な事であった。
「まあほんとに不養生な、
白肉のでさえたべない様にして居るのにねえ。
あんなに云って置いたのをきかないからなんだよ。
と主婦は顔をしかめながら、例の人の難儀をすてて置かれない性分で早速、医者を迎えた。今じきにあがりますと云いながら、夕方になっても来て呉れないので、家の者は、書生が悪いと云ったので一寸逃れをして居るのだろう、お医者なんて不親切なものだなどと云い合って居た。
物に熱し易い娘は、
人の命の色分けはないじゃあありませんか、もう一度そう云って見ましょうよね。
若しそいで来なけりゃあ私云ってやる。
と怒った太い声を出して云ったりした。
手洗の水までそろえてまって居るのに来て呉れないので娘は到々催速の電話をかけた。
午前中からおたのみしてあるのに御都合がつきませんでしょうかと、あんまりいかめしい調子で云い迫ったので向うの奥さんらしい声はへどもどしながら、少し工合が悪くて横になって居るが、もうじきあがる様に申して居りましたと返事するのをきいて、常套手段の少々加減がを腹だたしく