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くろばしゃ
黒馬車
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,235 字 · 9 页
明る朝は誰も彼も起きぬけに宮部の容態を気にしあって、夜中に二度ほど行って氷をとりかえてやった女中は、そこいら中で捕えられて喋らされた。
いつ行っても、天井を見て起きて居るんでございます。
きっと一晩中まんじりともしなかったんでございましょうよ、可哀そうに。
他人の中で病むほどつらい事はございませんものねえ。
此処へ来て一日ほど立って、指をはらして二月も順天堂に通った事のあるその女中は、ほんとうに思いやりがあるらしく涙声で云った。
その日一日八度から九度の間を行き来して居た宮部の熱は、夜になっても別にあがりもしなかった。
それでも病人の部屋のわきの竹縁に消毒液をといた金□がならんであったり、氷の音がしたりすると、皆は、いやなものをさしつけられた様な気持になって不安げなつぶやきが低く起った。
それから二三日は何の変りもなくって退屈に立って行ったが、五日目に七度二分に熱った時には、皆がもう生き返った様な面差しになって、
「もう大丈夫ですよ、ええ。
チブスなら、どんな事があったって今頃下るって云う事はないのです。
それに、先生が云っていらっしゃったけれど、何にも下熱剤をつかってないと云うんですもの。