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くろばしゃ

黒馬車

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,235 字 · 9 页

青空文庫

只猫可愛がりになり勝な二十七になる女中は、主婦がだまって居ると、涼しい様にと、冷しすぎたものを持って行ったり、重湯に御飯粒を入れたり仕がちであった。可愛がって、自分の子を殺して仕舞う女はこんなんだろうと思うと、只無智と云う事のみが産む種々雑多のさい害のあまり大きいのを怖ろしがらずには居られなかった。

十二三日目になった時、様子を見に行った主婦は、気味悪く引きしまった顔になって帰って来た。

どうも面白くないねえ。

物を書いて居た娘のわきに座りながら云った。

どうして。

「まるで声が変ってしまって居るのだよ。

それにもう疲れて便所へも行かれないんだって、

だから、どうしてもチブスなんだねえ。

でも考えて見ると、去年お前が悪かった時なんかは九度以上の熱が十日以上続いて居たが、つかまって便所へは行けて居たからねえ。

そうして見ると、よっぽど悪性の熱だと見える。

どうかしなくちゃあならない。

その晩早速、親元へ電報を打ってやった。

只身の廻りの世話位なら誰もいやがるものもないけれども、何から何までとなると、女達も気の毒だし、第一、思う様には手が廻らないのが分って居る。