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つづみくらべ
鼓くらべ
山本 周五郎
「少女の友」1941(昭和16)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页
と。
×
父や母や、集っていた親族や知人たちにも、お留伊はただ自分が失敗したと告げるだけであった。誰が賞を貰ったかということももう興味がなかった、ただ少しも早く帰って老人に会いたかった。森本へ帰ったのは正月七日の昏れがたであった。疲れてもいたし、粉雪がちらちらと降っていたが、お留伊は誰にも知れぬように裏口から家を出て行った。
「まあお嬢さま!」
松葉屋の少女は、不意に訪ねて来たお留伊を見て驚きの眼を瞠った。……そして直ぐ、訊かれることは分っているという風に、
「あのお客さまは亡くなりました」
とあたりまえ過ぎる口調で云った。「……あれから段々と病気が悪くなるばかりで、到頭ゆうべお亡くなりになりました。今日は日が悪いので、お葬いは明日だそうでございます」
お留伊は裏の部屋へ通された。
老人は北枕に寝かされ、逆さにした枕屏風と、貧しい樒の壺と、細い線香の煙にまもられていた。……お留伊は顔の布をとってみた。衰えきった顔であった、つぶさに嘗めて来た世の辛酸が、刻まれている皺の一つ一つに浸みこんでいるのであろう。けれどいますべては終った、もうどんな苦しみもない。