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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《それでも私は行く(それでもわたしはいく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 頁

青空文庫

その方がスタンダール好みじゃない……?」

「スリのスリルか、洒落だね。――しかし、よくよくの事情と僕が言った時、あんたはなぜ眼をうるませたんだ?」

鶴雄がすかさず言うと、

「負けたッ!」

弓子は弱く微笑して、

「――言うわ、いいえ、あなただから言うのよ。あなたはあたしをしんみりさせるひとなのね。――よくよくの事情というのはね、つまり、あたしは姉さんを救いたいの。だから金がいるの」

そして、弓子が語りだしたのはこうだった。

――弓子は東京生れ、両親はなく、二つ違いの姉の千枝子と二人で、東京に住んでいた。

ところが、罹災した。

頼る所といっては、京都の叔父の家しかない。弓子は姉の千枝子と二人で、西田町の叔父の家へ転がりこんだ。

叔父は食糧営団に勤めているせいか米には困らなかった。家族一同腹一杯食べた余りを、闇で売るぐらい、あくどく役得を利用していた。

弓子はすぐその不正をかぎつけたが、しかし、それには眼をつむった。姉妹二人厄介になるには、こんないい家はないと思った。

叔父もはじめのうちは、

「うちは米ならいくらでもあるんやさかい……」

と、半分は自慢から、二人に親切にしてくれていた。