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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《それでも私は行く(それでもわたしはいく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 頁

青空文庫

十一

幹男はひきつったような顔で、ぽかんと突っ立っていたが、やがて、どっかとお雪の傍へ坐ると、

「なんぜ泣くねン……?」

「…………」

「一体どないしたんや」

「…………」

「言うてみイ」

お雪はきっと涙にぬれた顔をあげて、

「坊ちゃま。あのウ、若奥様が……」

若奥様とは宮子のことだ。幹男には伯母に当る。

「伯母さんがどないしたんや……」

幹男は不安そうにきいた。

十一

「若奥様が何もかも……」

お雪はおろおろと答えた。

「何もかも……どないしたんや」

幹男はじれったそうにきいた。

「何もかも勘づいておしまいどした」

「え……?」

「今さっき、お前妊娠しているのと違うか――ちゅうておききどした」

「叔母さんが……」

お雪はうなずいた。

幹男は血の色が自分の顔から引いて行くのを、意識した。

「うちもうここに居られしめへん。どないしたら、よろしおすやろ……?」

「さア、どないしたらええやろ」

幹男はいかにも途方に暮れたというような精のない声で、ぽそんと言った。

本当にどうしていいか、判らなかったのだ。

ただはっきりしていることは、自分が女中のお雪にはらませたこと、十七歳の自分がやがて父親になろうとしていること、しかもそれを叔母の宮子に勘づかれたらしいこと……これらの生なましい事実だけだった。