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「もくせい」ごうのなぞ

中谷宇吉郎集 第六巻

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第六巻(「もくせい」ごうのなぞ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,784 字 · 269 頁

青空文庫

庭の様子は暗くて分らない。そのうす暗い縁先に籐の椅子をおいて、牧野さんが坐っておられた。相変らず端然とした姿であった。罹災の話や、現在の生活の話などはほとんど出ず、松濤の時と同じように、戦争の前途とか、科学における彼我の差とかいう点について、静かに話をされた。

八十五歳になって、つい前の年には生涯の伴侶であった峯子夫人を失い、今また戦災によるこの不自由をみながら、ちっとも衰えを見せておられなかった。武見さんの言葉によると「親爺(大久保卿)は暗殺され、自分も湯河原で生命を落すところだったんだもの。ほんとうに生命がけの場面を何度も通ってきた老人にはかなわない」のである。そういえば、いつか牧野さんは「私はどういう巡り合せか、暗殺とは縁があってね」という話をされたことがある。原敬とは東京駅の悲劇の日に打合せの用事があり、森有礼の暗殺にも、星亨のそれにも因縁があった。それから大隈重信遭難の爆音もきかれた由である。生命がけという言葉も、文字で読むのと、身近に体験するのとでは、質的のちがいがあるのであろう。

この仮の住居の後、やっと近くに家が見つかって、その寓居で牧野さんは終戦を迎えられ、そして柏がついに終焉の地となった。