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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《二つの途(ふたつのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 頁

青空文庫

痰に交った血液は僅かだった。

「岡部!」と木下は云った。

「何だ?」と啓介は答えた。

二人は一寸黙った。

「君は入院し給え。」と木下はやがて云った。「僕が凡て取り計らってあげる。それは僕の最後の務めだ。」

「ああ、入院しよう。種々なことは頼む。」

二人共落付いていた。言葉の調子も静かだった。ぶっつかるべきものにぶっつかっていった後の安らかさだった。解決はしていなかった。然し苦しむことによって二人は解決の外に出ていた。木下は落ち凹んだ眼を、じっと畳の上に落していた。彼は云った。

「僕は君と交りを絶つ前に一言云っておく。生死を背景にした賭事は云わないようにし給え。これが僕の最後の忠告だ。」

「あり難う。」と啓介は答えた。

木下は障子の硝子から外をすかし見た、晴れ渡った青い空があった。快い日の光りが一面に落ちていた。彼は暫く躊躇した。それから立ち上った。

「では行って来る。」

彼はそのまま室を出て行った。

室の隅に坐っていた信子は、俄に立ち上った。啓介は眼を閉じた。彼女は夢みるような眼を見据えた。肩を震わした。そして木下の後を追って行った。

木下は画室に居た。マントを着ていた。