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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《二つの途(ふたつのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 頁

青空文庫

十四

然し、私の心を信じて下さい。私は淋しいのです。この淋しさは、あなたには分らないかも知れない。岡部君を持ってるあなたには……。」

木下は歯をくいしばった。そして倒れるように、今まで信子が掛けていた窓縁に腰を下した。

「私が悪いのです、私が!」と信子は叫んだ。

彼女は木下の腕に縋りついた。木下は意識を失ったかのように、深く瞑想に沈み込んで身動きさえもしなかった。……突然、信子は激しい恐怖に震え上った。彼女は両手を握り合して、後退りしながら室を出て行った。入口で一寸足を止めた。木下は頭を垂れて、黙り込んでいた。彼女は急に身を翻して出て行った。

木下はじっとしていた。

十四

啓介は、頓服薬をまたのみたいと云った。身体に障るからと云って高子がとめた。啓介は黙って首肯いた。然し夜になると、彼は自然の眠りに落ちた。眠りは安らかだった。一時過ぎに眼が覚めた。

深い静寂があたりを包んでいた。啓介は眠った風を装って、室内の様子を窺った。何の気配もしなかった。細目に覗いてみると、高子と信子とが起きていた。信子はだらしなく炬燵によりかかっていた。高子は何かの書物を読んで居た。