輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《二つの途(ふたつのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 頁
九
否場合という言葉を許さない、あるがままの現実だった。その中に死という「一つの場合」が浮んでいた。
病に侵された彼の頭脳は二つの錯誤に陥っていた。彼の心に映じた生は、健康者のそれではなくて病者のそれであった。次に彼は、「凡ての場合」のために準備をせずに、「一つの場合」のために準備をしようとした。――彼は死の場合を見つめていた。終日口を噤んで静に寝ていた。珍らしく、木下を病室に引止めなかった、信子に対して温和だった。心が半ば闇に閉ざされていた。やがてその闇に呑み込まれる場合のために準備することは、却ってその闇から脱する途のように感ぜられた。彼は苦しくはなかった。「死」そのものに脅かされてはいなかった。「死に脅かされる場合」のために悩んでいた。そして堪らなく淋しくなった。何物かに縋りつこうとした。木下と信子との姿が遠くに立っていた。それを手近に引寄せたかった。眼をつぶると、気が遠くなるような重い後頭部の鈍痛から、暗い闇が襲いかかってきた。
九
朝から吹き出した風が、晩になると可なり激しくなった。夕方少し雨が降った。夜になって霽れた。湿っぽい寒い風が雨戸に音を立てた。