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じんがいまきょう

人外魔境

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《人外魔境(じんがいまきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 101,713 字 · 205 頁

青空文庫

ダネックは、それを大切そうに蔵いこんだ。すると、四人の間に期待とも、不安ともつかぬ異様なものがはじまった。どうもそれが、氷河に埋ったようにはみえない。なんだか、大懶獣のいるあたりが空洞のように思われて、いまにも、氷壁をくだいた手が躍りかかりそうな気がする。そこへ、ダネックが息窒ったような叫びをした。

「どうした」

みると、頸筋を撫でた手がべっとり血を垂らしている。そこで、恐怖は絶頂に達したが、別に、氷をやぶって突きでた爪のようなものもない。それに、ダネックの頸には傷もなく、痛みもないのになんとしたことか。あくまで、粘ったまっ赤な血だ。ダネックはじっとながめていたが、「なアんだ」とフフンと笑い、「紅藻の、じつに細かいやつだ」と言った。

見ると、紅藻をふくんだ天井の氷が飴のように垂れてくる。しかも一層、四人がうごく微動につれ甚だしくなってくる。氷河氷の雨が、簾を立てたように降りしきるかと思えば、また、太く垂れて石筍をつくり、つるつる壁を伝わる流れは血管のように無気味だ。そして今にも、ゆるい弧をえがいて、天井が垂れてきそうな気がする。四人は、いま氷河のちょうど核へ達したのだ。