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せんねんのじさ
千年の時差
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《千年の時差(せんねんのじさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,756 字 · 10 頁
背景と事実は古代エジプトであるが、中に動いている人間は現代人である。この本と限らず、たいていのこの種の小説は、いわば大人の描いた子供の絵のようなものである。
もっともカントの理性批判の洗礼を受けた現代人が、理性と感性との分離もまだ出来ていなかった古代人の心理を、文章の形で如実に描き出すことは、まず不可能に近い難事である。或いは原則的に不可能なことなのかもしれない。しいて求めるとしたら、それは詩の表現に近い形をとるより仕方がないのであろう。こういう考えに導かれたのは、かつて折口信夫氏の『死者の書』を読んで、非常に強い感銘をうけてからのことである。程度の差こそあれ、いずれも「大人の描いた子供の絵」といささか多寡をくくっていた私も、この『死者の書』を読んだ時には、思わず愕然とした。現代の理性的思考以前の人のこころを、現代の文章でかくことも可能であったのである。藤原南家の郎女の姿、それは現代人には幽霊よりももっと縁遠いものであるが、それがこの書の中には、如実に生きていたのだから、驚いたのも無理はない。
彼岸の中日、二上山の日の入りに、西国浄土の仏の姿を見る郎女の頬は、紅梅色に映えている。