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なつむしあんどん

夏虫行燈

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《夏虫行燈(なつむしあんどん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,200 字 · 37 頁

青空文庫

四

『――だって、何うせ京都へは上らなければなるまい』

と、一方が小声でいう。

『それやあそうだが……』

『してみれば、山越えして、奥多摩から武州へ出るなんて、嶮岨な道をとって、しかも廻り道したりするよりは、江戸表へ寄らずに、真っ直に京都へ出てしまおうじゃないか』

『中山道を取ってか』

『いや、そう行くのは、誰も考える所だから、裾野へ出て五湖を横ぎり、東海道へ突き抜ける』

『ウム、だが何っ方にしても、もういちど、市之丞様に会った上で――』

と、云いかけた時、一方の浪人が、

『叱……』

と、目くばせして、膝を小突いた手が、衝立の陰にちらと見えた。

平四郎は、耳にも止めない様子をして、

『亭主、きょうの酒は、いつもの酒とは少し違いはせぬか。――もう一つ、酌いでみてくれ』

その間に――二人の浪人は、土間の草鞋へ手を伸ばして、

『勘定は置いたぞ』

やや慌て気味に出て行った。

四

市之丞。――確にそう聞えた。妙に、その名が、平四郎の耳へ残った。

(この城下で、市之丞と名乗る者は? ……)

と、考えていると、

『旦那、召上ってみて下さい。樽を代えてみましたが』

と、亭主がそれへ、桝でなみなみと、次のを酌んで来てそっと渡す。