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やまとこじふうぶつし

大和古寺風物誌

亀井 勝一郎

線上閱讀亀井 勝一郎《大和古寺風物誌(やまとこじふうぶつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,647 字 · 215 頁

青空文庫

もとは斑鳩宮寝殿の近く、隔絶された太子内観の道場であり、ここにこもって深思されたと伝えられる。いずれにしても太子の御霊は、いまなお憩うことなく在すであろう。夢殿に佇む救世観音の金色の光りは、太子の息吹を継ぎ宿しているかにみえる。百済観音のほのぼのとした鷹揚の調べとも、また中宮寺思惟像の幽遠の微笑とも異なり、むしろ野性をさえ思わしむる不思議な生気にみちた像である。慈悲よりは憤怒を、諦念よりは荒々しい捨身を唆すごとく佇立している。太子はかの未曾有の日に、外来の危機を憂い、また血族の煩悩や争闘にまみれ行く姿を御覧になって捨身を念じられたのであったが、そういう無限の思いを救世観音は微笑のかげに秘めているのではなかろうか。

今となってみれば、太子の一身をもって具現されたものは大乗の悲心であった。しかし仏法が伝来したが故に太子は大乗を修得されたというだけでは何事も語らぬにひとしい。仏法を宗派的なものに限定したり、乃至は外来の思想体系として知的に対したりするとき、歴史の根本は歪められるのである。たとい仏法は伝来せずとも、生の凄惨な流れに身を置かれた太子は、おのずから人生苦の深みに思いを傾け、真の救済について祈念せざるをえなかったということが大事なのである。