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しんきだんクラブ

奇談クラブ(全)

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ(全)(しんきだんクラブ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,139 字 · 208 頁

青空文庫

「私の紙入を持って来い」

空々しい顔をして、女中にそう言って見たことがありました。素直に持って来た紙入の中を見ると、百円札と十円札が一パイ、少なく見積っても二、三千円はあったでしょう。私は少しボーッとなって、内懐へ堅くしまい込みました。翌る朝橋の下で眼が覚めても、こればかりは何んとかして手に残し度いと思ったのです。

併しそれもいけませんでした。翌る朝、荒筵の中で眼を覚した時、第一番に懐の中を探しましたが、百円札どころか、赤い銅貨が一枚も無いという情けない始末です。

私はすっかり困惑して了いました。その間にも、花枝との間が次第に濃やかになって、私の方から申込さえすれば、千に一つも間違い無いところまで押し進みましたが、一方橋の下の住人としては、女乞食のお若は執念深く私に絡み付いて、もうどんな事があっても離れそうにありません。

此の儘で行ったら、私は気違いになったかも知れませんが、幸か不幸か、喜劇の結果は、思いもよらぬ恐ろしい姿で私の上へ降りかかって来ました。

或る若様生活の晩、私は堪え切れなくなって、客間から庭へ飛び出しました。女中や家来共の眼をのがれて、往来へ抜け出したら、門札を見るなり、巡査に訊くなりして、自分の名前と、屋敷の正体だけでもわかるだろうと思ったのでした。