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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《妖虫(ようちゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 頁

青空文庫

誰が先にともなく、湯殿の中へなだれ込むように入って見ると、タイル張りの洗い場一杯に、珠子の白い身体が長々と横たわっていた。

「守さん、あれを、あれを」

珠子の身体に近寄りかけて、何ぜかハッと飛びのいた殿村夫人が、真蒼になって指さすものを見ると、守青年も書生も、ギョッと立ちすくんでしまった。

俯伏しになった珠子の、美しい背中に、ポッツリと赤い斑点があった。最初は、それが珠子を殺した傷口かと思われたが、よく見ると、血ではなくて、血よりももっと恐ろしい、一匹の真赤な虫であった。赤く彩られた蠍であった。

珠子はこの毒虫に刺し殺されたのか。イヤイヤそんな筈はない。春川月子の場合と同じように、それは蠍の死骸に過ぎないのだ。悪魔の紋章に過ぎないのだ。

守は珠子の上にしゃがんで、その赤い虫をパッと払いのけた。やっぱり死骸であった。払い飛ばした毒虫は、湯殿の隅に、じっと動かないでいる。

「珠子、珠子」

守は妹の身体を抱き上げて、傷口を検べて見たが、どこにもそれらしい痕はない。

名を呼びつづけて、上半身を揺ぶっていると、珠子がパッチリと目を開いた。アア殺されたのではなかった。