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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《忘れ残りの記(わすれのこりのき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 頁

青空文庫

だからぼくの両親は、それらの子たちには、親のごとく慕われたらしい。また、より以上に、感激してくれたのは、その子供らの肉親たちであったという。大げさに云えば、神さまか何ぞのように、有難がられ、月謝よりも、朝晩のように、子の親たちが、畑の物や魚などを台所へ置いてゆくので、生活は楽だったし、よろこばれる張合いで、毎日の疲れなども、その数年は忘れていた程だったと、母は後々まで述懐していた。

それとおもしろい事に、日本人の観念のあいだには、古い部落的な差別があっても、外人たちは、無頓着だから、そういう中に、ジョージだのフランクだのという眼の青い子も、一しょになって、日本の小学読本を読んだり、歌ったりして、けっこう仲よく飛び刎ねていた事だった。もっとも、これは明治二、三十年頃の横浜そのものの縮図でもあったのだ。

多くを聞かされていないが、ぼくの父吉川直広が、横浜の端ッこで、そんな国際的寺小屋の先生にたどりつくまでには、小田原の郷里を出てから後、もう相当、いろんな人生経路をふんでいたように思われる。

妻帯も、ぼくの母が初婚ではなく、その前に小田原で一しょになった先妻があり、ぼくには異母兄にあたる政広とよぶ一子もあった。