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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

昭和十七年聖ルカ病院にはいり、アディスン氏病と診察、これは顔色が黒ずみ、たすからない病気なのだ。冬の初め私は堀辰雄と二人で、築地の病院に彼をたずねたが元気で煙草を喫み、例の快笑は病室にひびいていたくらいである。ともあれ一度退院して鎌倉の山の下で療養するつもりだといい、少しも、たすからない病気のことは苦にしていなかった。必らず治るというつなぎで彼は生きていた。

嘗つて中野療養所に立原道造を見舞った一人の、あの時津村は立原はもう起きられまいと言った一人が、絶対に治らないアディスン氏病に取り付かれて、片手に死をにぎっていなければならなかったのだ。

この築地界隈は下町うまれの堀辰雄には、どこにも見覚えのある町景色であるらしく、堀に連れられ銀座まで歩くことになった。二人ともたすからない津村信夫の話はしないで、現にたすかって歩いている二人で、生きのよい肩をそびやかしていた。街角の西洋料理店にのぼり、そこの卓上電灯が余りに古風で美しいので、おちついて名物のビフテキを堀が食べ、私は酒を飲んだ。

「次々に死ぬが、こんどは年からいうと僕の順番だ。」

と私は言ったが、堀は笑って戯談にしてしまい、私もそれをやはり戯談としてまぜっ返していた。