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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

本屋で立ち読みする無心の私は、そこから去るときは蒼褪め悲しみ嫉み怒りをおぼえていた。その不倖は私の東京彷徨のあいだじゅう、青春の何年間も続いていた。誰でも文学をまなぶほどの人間は、何時も先きに出た奴の印刷に脅かされる。いちど詩とか小説で名前が印刷されるということは傍若無人な暴力となって、まだ印刷されたことのない不倖な人間を怯えさせ、おこりを病むようにがたがた震えを起させるものである。

光太郎の死去の月に私はある雑誌から、小説「高村光太郎」を書くように頼まれたが、私はあの人のことを書くことはあの人の潔癖をいじくり廻すことになり、私は私で不倖な年がいもない小説をかくようになるからと言って引き退った。あの人のことを小説に書いたら、碌なことを書かないだろうという予測があった。私としては前例のない謙虚の気分で、巨星墜つという感じで敵手の死を小説にまで書く気はなかった。

光太郎の生前にも私は機会があるたびに、光太郎を褒めても半分は肉迫し何かをくさしていた。たとえば、芸術院会員にすいせんされても、きっと断るだろう、という私の見方に誤りはなく、かれはそれを断った。