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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
たえ子はきっとお会いするのが窮屈なのであろう、それに釈さんとこの前会った後で熱が出たからそういうのであろうと思ったが、私はそこに病人としてのたしなみを見る気がしたのである。切角見舞いに来た尊敬する人の気に反いて、会わないということに堀がその気になったことに、病人のわが儘のかなしみがあって、はなはだ女性的であると私は思った。僅かそのような我儘というものの心理は複雑なものであった。釈迢空は堀辰雄に好意をもっていたし、好意は非公式の愛情をも潜めていたものらしい、堀もそれをうすうす知っていたから、おとろえた姿をこの人の眼に見せたくなかったのだろう。
この日は迢空は次の間でたえ子と話をして、軽井沢に戻って行かれた。たえ子は後でどうして態々いらっしったのにお会いしなかったのだろうと、後年私にはなしていた。堀の複雑な心づかいが私にはよく判った。それは釈迢空ばかりでなく、私は堀が寝込んでから近い軽井沢に疎開していて、八年の間一度も見舞いに行かなかった。それはまだ戦争時分だからたえ子は自転車で軽井沢にやって来て、パンとか菓子とか魚とかをやみで購い入れ、私の家で持参の弁当をつかって午後も寒くならない間に戻って行った。