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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新・平家物語(しん・へいけものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 頁
鳥獣戯画
痛いと逃げる頭もなく、なすがままになっている。うんも、すんも、みないわないのである。そして清盛の一つひざへ湯のような涙をながし合うのだった。
男くさい、酒くさい、異様な涙の蒸れに鼻をつかれながら、清盛は、親鶏が腹の下へヒヨコを抱え入れたときのように、昂然と、杯を招いて、ひと息にのみほした。
鳥獣戯画
野へかえすと、家畜も、まもなく、野獣になる。
愛らしい、籬の植物でも、畑の物でも、同じだという。
人間の場合は、その還元が、もっと速い。――たとえば、ここに見る遠藤武者盛遠などにしても、そうである。いかに人間は、一夜のうちにも、原始の半獣人へすぐ還るものかを――かれの姿は、ありのまま、一つの生命に、ぶら下げていた。
(おれは、生きてゆくのがいいのか。死ぬのがほんとか。おれにも、分からなくなった。おれに、考えさせるひまも与えず、おれのあとから、たえずだれかが追け狙ってくる。おれは、休みたい。……すこし、どこかで、息づきたい)
かれは、のべつ「おれが、おれが」――と、つきつめている。「おれ」なるものは、とうに失っている自分であるのに。
あの夜。――菖蒲小路の一つのやしきから、魔魅のごとく、影をくらましたきり、かれは、ちまたを見ていない。