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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新・平家物語(しん・へいけものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 頁

青空文庫

鬼影

仁和寺の御幸も、あと十日ほどしかない。院の武者所は、その日のしたくに忙しかった。清盛は、こんど初めて、六位の布衣に叙せられて、御車の随身を仰せつかった。へんてこな自責感に問われたものの、正直にかれはうれしがった。随身は、選ばれたる近衛の騎馬将校である。過ちのないように勤めようと思う。

人々役々で、退け刻はちがうが、清盛はこのところ、帰宅は毎日、夜おそくなった。疲れる、腹がすく、妄想のいとまもない。結局、かれは救われた気がした。まくらにつけば、正体なく、すぐ快睡の常態になれた。

九月十四日。

――夜半というのも当らない。四更のころである。

清盛の寝屋へむかって、あわただしい足音が馳けた。郎党の平六家長だ。武者仕えの男の、日ごろからな心がけが出て、声高に、呼ばわり告げることには。――何事か、一大事な候うずらん、ただいま、院の宿直より早馬にてのお召しにこそあるなれ、いそぎ物の具つけて、揃い庭へ渡られそうらえ。早く、はやく――と、促すのだった。

『なに。不時のお召しだと?』

清盛は、足音に、逸早く、とび起きていたので、さしても驚かなかったが、弟の経盛は、歯の根も合わず、あたふたいう。