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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁
と、驚いたように、寧子の白い顔は、振り向いた。
恋は密かに――また誰でも、忍びやかにするものである。
近所の窓が明いたり、奥の父や母にまで聞えるような大声を出されては、処女ごころは、本意なくても、居堪まれるわけはなかった。
寧子はさっきから門の前に立って、ぼんやり秋の空を見ていたが、藤吉郎の声を聞くと、顔を紅らめて、門の内へあわてて隠れかけた。
すると藤吉郎は、また、
「やあ、寧子どの。わしだ。藤吉郎ですッ」
なお大きな声を揚げて、彼女のそばまで駈け寄った。
「ごぶさた致した。公務多端で……どうも」
寧子は、門の中へ、半分かくれかけたが、もう彼が挨拶しているので、余儀なく、
「いつも、お健やかで、何よりでございます」
しとやかに頭を下げた。
「父上には、ご在宅か」
彼が訊くと、寧子は、
「いいえ。留守でございます」
といって、はいれとはすすめずに、かえってそっと、門の外へ少し出て来た。
「又右衛門殿が、お留守では……」
と、藤吉郎はすぐ彼女の迷惑を察して、
「外で、失礼しましょう」
と、自分からいった。
寧子も、それが望みらしく、黙ってうなずいた。
「きょう参ったのは、他ではないのですが、今朝、犬千代が立ち寄りませんでしたか」